「今、帰り?」
 中学二年生の頃。自転車通学の私は、通学路いちきつくて長い坂道を自転車を押して登っていた最中だった。
 突然後ろから声を掛けられてひどく驚いた。

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 慌てて振り返れば見知らぬ男子中学生。外見で人を見るのが苦手な私は、この時の彼のことを年下だろうかと判断してしまった。
「うん……、帰り」
 年下というだけで苦手意識があった為、私の返事は素っ気ないものに聞こえただろう。

 それでも構わなかったのか、彼は自転車から降りて、私の横に並ぶと同じように押して歩き出した。
 どうしようかと私は内心焦った。

 名前を聞くべきだろうかと悩む。
 どうしてそんなに狼狽しているかというと、この通学路は私しか使用者がいないはずなのである。
 小学生半ばから自転車通学を続けていただけ、見知らぬ誰かが同じようにこの長い坂道を、しかも立ち漕ぎでてっぺんまで登り切ろうとしていたのだから、動揺するなというほうが難しい。

「それ、あつくね?」
 安全の為だからと律儀にかぶっていた通学用のヘルメットを指摘されて、私は思わずそれを右手で押さえた。
「転んだら怪我したくないもの」

 彼の自転車かごに入った校章入りの白いヘルメットを睨みながら反論してみるが彼は小さく笑うだけだった。
「脱げよ、あっついじゃん」
 まだ、六月も終わりかけたばかりの季節に、彼と通学路が一緒だったということを私は知るのだった。

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